東京高等裁判所 昭和31年(う)2310号 判決
被告人 桑山龜三郎
〔抄 録〕
所論は原判示第二の(二)及び(三)の事実につき収賄罪の共同正犯の成立を争つているので、この点についても考察するのに、原判決挙示の証拠その他一件記録並びに当審における事実取調の結果によるも、原判示の如く、被告人が服部宣明と共謀の上、公務員たる同人の職務に関し賄賂を収受した事実はこれを確認するに十分でなく、却つて右証拠によれば、被告人は、予ねて劇団文学座を新潟市に招致して上演させようと画策し、これがギャランティ資金二十二万円の融通方を自己の遠縁に当る前記三和工営株式会社取締役社長中村和作に申し入れたところ、同人から同会社のため適当な土建工事の請負先を紹介斡旋して呉れれば出金する旨の諒解を得たが、一方、前記今町中学校体育館新設の計画があることを聞知したので同町長服部宣明とも眤懇の間柄であつたところから、両者の間を斡旋し同会社をして右工事を有利な条件で請け負わせることにより、右中村から所要資金の融通を受けようと企てたこと、そして被告人は右中村和作に対し同会社が右工事を請け負うためには同町長に金員を供与すべきことを慫慂した結果、近藤敏直(原審相被告人)、長岡仁一郎など同会社斡旋部役員ともこれが金員供与を共謀の上、昭和二十九年十一月二十五日頃右工事を三和工営株式会社をして随意契約により、しかも総工費約一千万円の三割程度の前渡金を支払うなどの条件で請け負わせる旨の仮契約書を取り交すに至らしめ、同日新潟市西堀前通二番町なる同会社事務所から同市上大川前通五番町料亭生粋へ赴く自動車内で同町長に対しその職務に関し右仮契約締結に対する謝礼として現金三十万円を手交したこと、次いで同町長から更に謝礼金三十万円の追加要求があるや、被告人はなおも右中村和作等に対し、右追加要求にかかる謝礼金三十万円を供与しても、同会社において右工事を請け負うことの得策である旨を進言慫慂し右金員供与方を協議決定したこと、そして同年十二月七日頃前記会社事務所において前同様の条件をもつて右工事請負の本契約を締結した際、右中村和作をして同町長に対し、その職務に関し右本契約を締結してくれたことの謝礼として現金三十万円を交付させたことを認めることができる。これによつて見れば、被告人は原判示の如く今町町長服部宣明と共謀の上同町長の職務に関し、賄賂金合計六十万円を収受したものではなく、叙上の如く、中村和作のため三和工営株式会社の利を図り、よつて同人から所要の演劇上演ギヤランテイ資金の融通を受ける意図の下に、終始同人の側に立つて右服部との間を斡旋し前記今町中学校体育館新設工事請負契約を締結させる傍ら、右中村和作等を慫慂してこれに伴う前記謝礼金(賄賂)の供与方を協議決定しよつてこれが交付をなさしめたもの、即ち中村和作等と共謀の上、服部宣明に対し右賄賂金を供与したものと解するのを相当とするから、原判決がこれを服部宣明との共謀による収賄罪と認定し且つ被告人からその分配領得した金額相当の金員を追徴すべきものとしたのは事実を誤認したものであり、しかもこれが判決に影響を及ぼすことは明らかであると言わねばならない。論旨は結局その理由があり、原判決はこの点においても破棄を免かれない。
(三宅 河原 遠藤)